(渡欧中の飛行機の中で考えて書いた事をつらつらと…)

 

設立から8年強。人を採用するようになってから約6年。ずっと考えてきたのは、従業員(またはエンジニア)にとっての理想的な就労環境の実現でした。その為に僕がやってきたのは、役割分担の徹底と執拗なまでのムダの排除です。それが結果的に生産するもの(アプリやサービス)のクオリティを支え、御客様のメリット最大化を図りつつ、従業員の幸せも担保できると考えてきたからです。

危機感

これらに全力で(それこそ身を粉にして)取り組む事で、今でも離職率ゼロを維持し、待遇面含めエンジニアからは大きな不平不満も無く、フィードテイラーで将来は働いてみたいと思う人も現れ、開発したアプリ実績数は優に100を越え、Appleさんやキャリアさんとも直接お付き合いをさせて貰うようになり、大手企業がひしめくB2B市場でしっかり存在感を持つSYNCNEL(MCM業界で6位。上位でベンチャーはウチのみ)という自社サービスを収益源とするまでになりました。有給消化率は高く、残業時間ほぼゼロで、同じ業界で単純な対労働時間生産高を比較をするならスコアは相当高いだろうという自負も持っています。

今の状況を成功と仰って頂ける方もいます。まがりなりにもエンジニアの理想的な就労環境を作ることは出来た(と思っている)ので、自分が目指したものを達成した事を成功とするなら確かにそうなのかも知れません。

でも次のステージ(その理想環境の持続性確保)に目を向けてみると、ウチ独自の構造に潜む構造的欠陥がウィークポイントとして表出するようになってきていて、それに危機感を感じてしまうのです。今は良くても時間軸を先に伸ばすとそうも言っていられないと。経営者が自分のブログで危機感感じる〜と書くのもどうかと思いますが、持続性(サステナビリティ)が高くない事業や会社は長続きしないのは自明の事です。

昔に発表させて貰ったDevLOVE関西の時の資料から1枚引っ張ってきました。

DevLove関西Decision_today_key

DevLOVE関西発表資料から。僕はグリーン。全ての案件の窓口・調整役を担っている

御客様とのコミュニケーションはゲートウェイたる僕(上図グリーンの人)が担い、実経験に基づくエンジニアリング知見と御客様とのコミュニケーションという渉外力とでもって内外の「壁」を作り、少数精鋭のエンジニアが開発業務に専念する時間を限りなく100%に近づける、これがフィードテイラー流の開発体制です。

このゲートウェイの役割は僕にしか出来ないと昔から思っていて、だからこそウチらしさが現れるポイントともなっていました。しかし、この構造は、僕の負荷がプロジェクトの増加に伴い比例的に増えていくという欠点を持っています。まぁ当然と言えば当然で、何とか耐えてたつもりなんですがそろそろ限界が見えてきました。

経営とは何か

限界は最近特に顕著に見えてきて、僕が経営者として「経営」を行える時間が年々逓減しつつある事に現れてます。正直、経営者ではなく、プロジェクトマネージャーとしての大石という顔でいる事が多くなりました。つまり、経営をちゃんと出来てないに等しい。

経営とは、リソースから生み出せる価値の最大化です。

ウチのようなソフトウェア開発業の場合、エンジニアの1時間が御客様の満足にどの程度繋がったのか、エンジニアの1時間がどれだけの利益に繋がったのか、エンジニアの1時間がエンジニア自身のモチベーションやその身内の笑顔にどの程度繋がったのか、それらの指標を何倍にも何十倍にも膨らませる事により、社内外の関係者全てをより幸せにするということが経営だと僕は考えています。

そこに時間をかけれていないなら、いずれ時代の趨勢に左右されジリ貧状態になっていく事になるでしょう。内外に提供しうる価値を増幅出来てないんだから。それこそ歯車が一つ狂えば一気に崩壊します。だから経営者は、中長期的な複数の視点や戦略を持って次の手を次々と考察し模索し実行に移していく必要がある訳です。

それが今、余り出来なくなっていて、考える時間が本当にありません。毎週ハーフマラソンの距離を走っているのは考える時間を無理矢理にでも確保する為と言って良いほど。経営者が経営に専念できないのは長い目で見れば御客様にご迷惑をかけるばかりか、社内外の幸せ度が落ちていくに違いない。この状況を抜本的に解決すべき状態にあります。

そんな中でも頑張って経営っぽい事をしたなぁ〜と思った例を一つ。

昨年子会社化したSYNCNELは、とあるオペレーションで何も追加の開発を行うこと無くある時から利益が10%増になりました。勿論、御客様には全く不利益になる事が無く…です。開発者の1時間が生み出す利益が「調整」だけで1.0から1.1になった。併せて御客様の満足度も販売パートナーの満足度も体感で1.1倍にはなってます。

経営っぽいですね。

その他にも、今は他ソリューションとの連携を深めて、販売チャネル増と解約率減を図る動きもとり始めていますが、これも社内リソースが生み出す価値の現状1.0を2.0にし易くし、0.8にならないようにする取り組みであり、今その調整を進めています。またこの11月に渡欧してロンドンで会議をしてきたのも同じ目的です。

経営とはこういう事であり、資料作りも会食もプレゼンも出張も全部この為にやっています。ホントはここにもっと時間をかけなくちゃいけないのに、上述の構造的欠陥が負荷になっている為にかけられる時間が余りない。これは言い換えると、御客様や販売パートナー様にもっと便益を提供出来る機会を逸失していると言えなくもない状態です。あわせて、担当しているプロジェクトのスピード感にも影響します。

経営の専念率も最大化

エンジニアの役割分担の徹底と開発専念率最大化を推し進めながら、自らの経営という役割専念率を低下させていっている状況とも言えます。そろそろ自分の役割を再定義して自分の時間というリソースの配分を最適化しないといけません。

もちろん、マネージャー的な自分の役割をいきなりゼロにする事はできませんけど。現状を100だとしたら少しずつ減らしながら1年後には50%減って残り50%は経営に専念してるイメージです。3年後には10%で、9割はホントに経営してる感じ。

繰り返しになりますが経営とは社内リソースから生み出す価値をブーストさせること。

果たしてそんなに簡単にいくのか分かりませんが、今回見えている課題(限界)は打破する為に何かを捨てなければならないタイプの限界。そこで創業から、特にスタッフが増えてからずっと持っていたエンジニアのゲートウェイ的な役割は自分でなきゃダメというこだわりを捨てる事にしました。気持ちだけで越えられる限界もありますけど、この限界はそうじゃない。だから、自分の役割を一部担って貰い得る人にジョインして貰う時がきたと判断したのが先日のことです。

多岐にわたるプラットフォーム・言語での開発経験があり、自社商品・サービスのマネジメント経験があり、メールや各種ドキュメントの作成能力も備え、電話対応や接客も全うに行う事ができ、最新のテクノロジに対する向上心と学習意欲を持ち、営業・技術営業として打ち合わせもこなし、各種セミナーや講演も行うような人にジョインして貰えると僕の負荷は目下50%になるなと。

さすがにここまでは高望みし過ぎですがエイヤーと踏み込む時だと思う昨今です。

 

30代最後の誕生日を迎えてすぐ渡欧の為に乗った機中で、とある原稿執筆に追われながら未来の事を色々と考えていました。変わるべき時が来たのだと思います…っていうかちょっと遅すぎた感は否めません。それを取り戻すように年末年始は激務が続きそうですが、思い描く次のステージ(理想環境の持続性確保)も見えてきたのでそこに到達すべく頑張ってまいります。